憧れの30代

その昔、魔法が使えるなら自由に空を飛びたい、でもこの想像は安直すぎるかしら(他のものを考えついたほうが素敵なんじゃない?)、と思っていた私も、いややっぱり空を飛べるのがいいと思い直した時代を過ぎ、魔法が使えるならムダ毛を自由自在になくせるようになると地味に便利なのでは(じゃなきゃ食べ物の鮮度を保つとか?)、と想像するようになったのですが。

いわゆるティーンエイジャーのあたりから20を少し過ぎたくらいまでのころ、30代に物凄い憧れがありました。

30代で私が出会った人たちはみんなやたらめったら素敵な人たちだったのです。
ご当人が素敵な人だったからということはもちろん、そこには30代の魔法があるように見えていました。

落ち着きがあって、でもはしゃいでいて、自分の癖を知っていて、がっついたりせずに、おいしいものを見つけてきて、日々のことに折り合いをつけながら、でもここだというところで素敵な体験をしにいっている人たち。
自分のことをよく知ってらっしゃるんだなあ、と何度となく思ったのです。
私はその方々のことをほんの少ししか知りません(知りようもありません)。ただその人たちのお話や態度から、ああ、ご自身のことをよく承知しているからできることがたくさんあるのだ、と感じていました。
それは何よりの憧れでした。

ぶんぶんと自分に振り回されてばかりで落ち着きもなく、流され、段取りなんかひとつも努力さえできてなくてはちゃめちゃでヒステリックな、そう自認しておいてなんの手立ても講じられていない…という認識の当時の私だけれども。

長く自分と付き合うということだけは、ぼんやりしていても私だってしていることだから、だからといってとうていああなれるだなんて思えないけれど、でももしかして、自分が思うより、30代の私は今の私から見れば、そんなふうになれたの! ということが、ありそう。
そう思えました。

さて、その憧れの30代を…まあまあ、まあ30は過ぎております私ですけれども。
自己評価はともかく(当時の私の自認については、おうわかってんじゃん、そこに落ち込まずにまず鏡見て何をしていくか組み立てていこうや、と今の自分にも言いたいけど! まあでもできるようになったこともあるよ、たぶん!)。

「さっきの人、素敵でしたね。あんなふうになりたいな」

って、言われたらしい。
らしいんですよ。

年単位で長くお世話になっている鍼の先生がいるんですけど。
行くときは寝巻き一歩手前のジャージみたいな姿で行っているし、終わったら髪までよれよれでも気にせず帰っているんですな。
あるとき、私のあとに、大学生かなという方がいらっしゃっていたんです。その方も長く通われている方らしくて。
何がよかったのか、わからない。わからないけど、よかったらしい。
先生は「でしょ」って言ったらしい。

それを聞いた私、「えー! ありがたいですね」しか言えなかった。
ずーっと帰り道にやにやしていました。よれよれの髪も相変わらずさほど整えきれてないまんま。
今こうやってブログに書くくらい、ずーっとにやにやしたまんま。

何がよかったのか、わからない。わからないけど、こんな嬉しいこともある。

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