くつをなくす

青インクを三回こぼしたような陰を見ている
つまさきがふと 靴からあふれて沈み込む
あ、と閃くような何かが胸を打って足を下ろす
と、思いのほかしっかりと、しっかりとした感触が素足に響いた
階段だ
ふかい水べりのように青昏い
一歩下りるとまた一歩ふかくへ足はすすんだ
すこし傾斜のある階段なのだろうと思った
すべりおちる心配はしなかった

土 どろだんごのようにすべらかな土 幼稚園にあった山を思い出す
時折埋まった大きめの石の冷たい感触がかさかさと楽しい

はまってしまったらどう見えるのだろう
抜け出せなくなったら昔絵本に見たマンドラゴラに見えるだろうか
いつか足には風がふきつけるだろうか
寒さに凍えるだろうか
水のおもみにたゆたうだろうか
そういえば服をきているのかどうか

へその潜り込んだくらいまでで歩みを止める
近くにひそみ眼前に突きつけられた私の陰だ
手を伸ばして下ろしたが砂利の感触があるだけだった
誰もいないのをいいことにクロールのまねごとをする
腕だけで泳ぐのなら得意だ

音は 音はするだろうか
腰を曲げると顔をぺったりとくっつけた
ひんやりとしていた
砂利の感触があるだけだった
嵐が起きるだろうか
この耳が検知するものは何になるだろうか

どれくらいそのままいたろうか
面倒に任せて飽いてもそのままいた
ようと飽いて開けば日没は過ぎていた
私は小さく体育座りをしていた
頭や口の端やほおについた砂利を払いのける
立ち上がると靴がなかった
ほのあたたかいコンクリートの上を歩いて帰った
黒く暗い夜だった

 

2014/01/20 (Mon)

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