ツノ

それは
いっとうぶんのツノでした。
しんはり冷たくて
なでらかで
ほほにあてると
心地好いものでした。
両手に なるべく
形にぴったりそわせて
やわく握り
くちにへとりとあてると
舐めたくなりましたが
出来ませんでした。

そのまま ゆっとり
顔に沿わすように
額までもっていくと

やはり
くっつきはしませんでした。

わたしのものになりそうもないツノは
やわく、さっぴりと窓辺にいつも居ました。
舐めたところで
やはり
くっつきはしそうにもありませんでした。

ある夏の
ひとまたたきの真夜中のうちに
汗ばんだわたしの手から
ねろりと
落ちて
こなごなになってしまったので

朝日の昇りきる前に
鳥たちにさら、さら、ばらまくと
顔を洗って朝日を迎えました。

きら、きら、鳥たちは光るそれに見向きもせずに
鴉が何度かつついて
それきりでした。

それは
いっとうぶんのツノでした。
しんはりつめたくてなでらかで
ほほにあてると心地好いものでした。

わたしのものにならないツノは
やはり額にくっつきはしなくて
それきり、でした。

戻る